2014年03月28日

ロシアに介入の口実を与えるウクライナ暫定政府の極右勢力

3月24日(現地時間)、安倍首相はオランダ・ハーグで開かれたG7(先進7か国)首脳会議で、ウクライナに対して1,500億円の支援を行うことを表明しました。

ロシアが強行的に同国への編入を決めたクリミア半島のみならず、ロシア系住民が多い東部でもロシアの介入の動きが高まっており、ウクライナの安定化に向けて暫定政府を支援するという趣旨はよく分かります。

最近ではアラブの春などに象徴されるように、通常のクーデターというのは“独裁的な指導者による圧政に耐えかねた市民が一致団結して政権を倒す”というイメージを持つ人がほとんどだと思います。

ウクライナにおいても、ヤヌコビッチ大統領がEUとの連合協定署名を見送り、ロシアに接近しようとしたことに野党が反発して政権打倒につながりました。
そして、政権打倒運動で活躍した野党の指導者を中心に暫定政府ができました。

その騒乱の最中にロシアがクリミア半島に侵攻し、住民投票を実施した上で同半島のロシア編入を宣言したわけです。

騒乱に乗じて領土の拡大を図るなど到底許されるものではありませんが、ウクライナの暫定政府側にもロシアがクリミア半島侵攻の口実を与えてしまっている事情があります。

日本のメディアではほとんど報じられていませんが、ロシアのプーチン大統領は3月18日にクレムリンで行った演説において、ウクライナの暫定政府を次のように批判しています(拙訳)。
I would like to reiterate that I understand those who came out on Maidan with peaceful slogans against corruption, inefficient state management and poverty.
(私は、マイダンにおいて政治腐敗、非効率な国家運営及び貧困に対し平和的なスローガンを掲げて立ち上がった彼らを理解していることを改めて述べておきたい。)

The right to peaceful protest, democratic procedures and elections exist for the sole purpose of replacing the authorities that do not satisfy the people.
(平和的な抵抗、民主的手続及び選挙についての権利は、国民を危険にさらす政権を交代させるという唯一の目的のために存在する。)

However, those who stood behind the latest events in Ukraine had a different agenda: they were preparing yet another government takeover; they wanted to seize power and would stop short of nothing.
(しかしながら、最近のウクライナ騒乱を後押しした者たちは別の意図を持っていたのだ。彼らは権力奪取の準備をしていた。権力を奪おうとしていたのであり、まったく思いとどまる気はなかった。)

They resorted to terror, murder and riots. Nationalists, neo-Nazis, Russophobes and anti-Semites executed this coup. They continue to set the tone in Ukraine to this day.
(彼らはテロや殺人、暴動という手段に出た。ナショナリスト、ネオナチ、嫌露主義者、そして反ユダヤ主義者がこのクーデターを実行した。彼らは今でもウクライナで同様の姿勢を持ち続けている。)

The new so-called authorities began by introducing a draft law to revise the language policy, which was a direct infringement on the rights of ethnic minorities.
(いわゆる新政府は、少数民族の権利を直接侵害する言語政策に改正する法案を提出することから開始した。)

However, they were immediately ‘disciplined’ by the foreign sponsors of these so-called politicians.
(しかし、彼らは支援者である外国のいわゆる政治家たちから、すぐに“懲らしめられた”。)

One has to admit that the mentors of these current authorities are smart and know well what such attempts to build a purely Ukrainian state may lead to.
(現政権の庇護者たちは賢く、純粋なウクライナ人による国家を作ろうという試みが何を導くかをよく知っているということを認識すべきだ。)

The draft law was set aside, but clearly reserved for the future. Hardly any mention is made of this attempt now, probably on the presumption that people have a short memory.
(その法案は棚上げとなったが、明らかに将来のために保留されている。おそらく人々が短期的な記憶しか持たないと睨んで、この試みについて言及されることはほとんどない。)

Nevertheless, we can all clearly see the intentions of these ideological heirs of Bandera, Hitler’s accomplice during World War II.
(それにもかかわらず、我々は第二次世界大戦中にヒトラーと同盟を組んだ(ステパン)バンデラのイデオロギー的後継者である彼らの意図をはっきりと見ることができる。)

ウクライナ暫定政府の支援を表明している欧米諸国のメディアも、ウクライナ暫定政府内における極右政党の影響力を測りかねているようで、BBCによる"Ukraine's revolution and the far right(ウクライナの革命と極右)"と題する記事でもその見定めの難しさが如実に表れています (拙訳) 。
Their role in ousting the president and establishing a new Euromaidan-led government should not be exaggerated.
(ヤヌコビッチ大統領を追放し、ユーロマイダンが主導する政府を樹立する上での彼ら(極右政党)の役割を誇張すべきではない。)

But, as the second image shows, nor should their involvement be played down, especially now they have assumed key ministerial posts.
(しかし、(反体制活動家の拠点であるキエフ市議会議事堂に白人至上主義のシンボルであるケルト十字が描かれた横断幕が掲げられていたり、議事堂の入り口の上にバンデラの巨大な肖像画が掲げられているという)2つ目のイメージが表すように、そしてとりわけ現に主要閣僚ポストを握っているように、彼らの関与を軽視すべできではない。

The ultra-nationalists, and their extreme right fringe, are a small part of the overall campaign - a subgroup of a minority.
(超国家主義者と彼らの極右過激派グループは少数派の下部組織であり、反体制運動全体からすれば一部に過ぎない。)

However, even though the far right are a minority, for their numbers they have played an outsized, though not decisive, role. What is more, at key points they have influenced the course of the demonstrations.
(しかし、極右グループが少数派だとしても、決定的ではないにしろ非常に大きな役割を担っている。さらに言えば、重要な部分でデモの流れに影響を及ぼしている。)

And, at times, they have appeared to be the driving force behind the Maidan - which has become an actor in the protests in its own right, alongside the political parties, the government and the Ukrainian population as a whole.
(また、彼らはマイダンの裏の推進力となっていたようで、政党や政府、ウクライナ国民全体と並んで彼ら自身抵抗運動のアクターとなった。)

記事にあるように、マイダン(抵抗運動)で重要な役割を演じた極右グループは全ウクライナ連合「自由」(Svoboda)という政党の党員として複数の閣僚を出しています。

この極右政党「自由」(Svoboda)について記事では、
In four years, Svoboda has gone from a fringe party - receiving less than 2% in presidential elections - to a major player in Ukrainian politics. Its members control six positions in the new government, including deputy prime minister, general prosecutor and defence.
(大統領選挙では2%未満の得票率だったが、この4年でSvobodaは泡沫政党から脱し、ウクライナ政治における主要プレイヤーとなった。メンバーは新政権で副首相、検事総長、防衛大臣を含む6つのポジションを支配している。)

But Svoboda members come in different shapes and sizes, with many people joining for its anti-corruption stance. Lately it has been toning down its nationalist rhetoric, in what may be an effort to go more mainstream. Moreover, it supports EU integration - an exception among Europe's far right.
(しかしSvobodaのメンバーは、反腐敗というスタンスに呼応する多くの人々が集まっており千差万別である。最近では、より主流になろうとしているのか、ナショナリスト的なレトリックはトーンダウンしている。さらにヨーロッパの極右政党では例外的にEU統合を支持している。)
と指摘しています。
実際に暫定政府内でSvobodaが影響力を持っているか、極右政策を推進しようとしているかどうかは別として、他国からネオナチと名指しされ得る(少なくともネオナチではないと100%の確信を持って否定することができない)政党が暫定政府の一翼を担っている事実が、ロシア側に“ネオナチからロシア系住民を守る”という口実を与えてしまっているのが現状です。

最近では3月20日に「自由」所属の国会議員らがウクライナ国営第1チャンネル本部に侵入し、同チャンネルのCEOを暴行し強制的に辞表を書かせる事件がありました(毎日新聞「<ウクライナ>極右政党「自由」国会議員らがテレビ局襲撃」)。

これは上述の18日に行われたプーチン大統領の演説を同チャンネルが放映したことを「ロシアのプロパガンダに加担した」と見なして襲撃したものですが、このような一部の議員による極右的な行動がさらにロシアに介入の理由を与えることになるのです。

したがって、ウクライナ暫定政府を支援しロシアによるこれ以上の介入を防ぐためには、国際社会全体として“暫定政府を支援する用意はあるが極右勢力の伸長を支持するものではない”という明確なメッセージを送るべきです。

そうでなければロシアを説得的に批判することはできませんし、策士であるプーチン大統領に対抗することはできないでしょう。

日本のメディアに対しても、“ウクライナ暫定政府=善”、“ロシア=悪”という単純な図式で報じることなく、丁寧な分析に基づいた冷静な報道を求めたいと思います。


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